カテゴリ:駄文( 54 )

【家長の役割】

「あなたの息子さんは、この春、26になったんですよ」
「はい、存じております」
「だったら言ってやってよ!」
「何を?」
「そのカッターじゃ駄目だって!」
「どれ...」
息子の着ているシャツを見ても話が一向に見えないので、
「どこか不都合でも?」
「...ええ、ええ、おとうさんに言ったのが間違いでした!」

きつねに摘まれたような気がしたが、相手が自分の非を認めている以上、何も言うまいと、読み掛けの本に目を戻した。

「親子揃って、もぉっ、にぶいんだから!」
「何を一人で怒ってるんだ?」
「襟と手首んとこが擦り切れてんのよ!」
「何だ、そんな事か」
「『何だ』じゃないでしょ、『何だ』じゃぁ!」

余計な一言だったらしい。

「この子、袖さえ通せれば服だと思ってんだから、誰かさんと一緒で」
「よく判ってるじゃないか」
「あのねっ!」
「ちょっと待て!被告人にも喋らせろ!おい、何とか言え!」
「おかあさんが同じ場所に同じ服を入れるからだよ」
「やっぱり!そりゃ駄目だ」
「何が『やっぱり』よ!二人とも『みっともない』って思わないの?!」

この後、私が数冊の本を使って申し分の無い「後入れ先出し」の実験をして見せた。

「上から取るからでしょう!下から取りゃいいじゃないの!」
「そんな面倒臭い事...おかあさんが下から入れてくれればいいんだよ」
「賛成!」

2対1で不利を悟ったのか、しばらく間を置いて、
「とにかく、新しいシャツを買います!」

「おかあさんが『買いたい』って言うんだから、付き合ってやれ」
息子に耳打ちして、親子で殴り合いにならずに済んだ。

こういう所に、家庭内平和を守る家長としての役割が存在するのである。
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by himesika | 2010-05-10 21:50 | 駄文 | Comments(0)

【千葉産】

バター・ピーナツというのは、落花生の殻や薄皮を剥いて唐揚げにした後でバターや塩で味付けした物らしい。

或る日、「千葉産バタピー」の文字が私を呼んだので買ってみた。
ただでさえ美味しい千葉産の落花生だ。
さぞかしと思って、ビールもグラスもちゃんと用意して食卓に着く。

こころなしか粒が大きいような気がする。
歯応えもひょっとすると違うかも知れない。
しかし、どうも納得が行かない。

袋の表には「千葉産落花生使用!」と赤字で大きく謳っている。
何か嘘臭いんだが...

何気に袋をひっくり返すと「千葉産落花生種使用」と小さく書いてある。
「種?じゃぁ千葉で採れた落花生じゃないんだ...」
ポリポリ噛んでいるうちにだんだん腹が立って来た。

千葉のやせた土地だからこその味なんだぞ!
それが同じ種だからと言って偉そうにっ!
こんなの詐欺だ、ペテンだ、犯罪だ!
お上が許しても私が許さん!

ぐびぐび言ってると家内が、
「お父さん、昼間っから酔っ払っちゃって何怒ってんの?
千葉産?
騙された?
種?
あのね、本物の千葉産だったらお父さんの小遣い銭で買える訳無いじゃないの!
いい歳してばっかみたい」

「いい歳して」は余計だが、家内の解釈は本質を捕らえていて妙である。
ふぅっとしたら可笑しくなって、カリカリ噛んでいるうちにオネムになった。
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by himesika | 2010-04-03 22:20 | 駄文 | Comments(0)

【薬】

御存知か御存知でないか存じ上げないが、私は1ヶ月に1度程病院へ行く。
患者のほとんどは第二次世界大戦当時の若人で、いつも院内は賑やかだ。
廊下で立ち話に興じているのは、たまたま知り合いとすれ違っただけでは無く、いちいち立ったり座ったりするのが煩わしいのだろうとお察しする。

そういう方達が、貴重な時間ときつい身体を使って楽しそうに通院生活を送っておられる。
私のような若輩者は邪魔にならぬよう、隅っこで小さくなっているか、壁を這うようにして歩かなくてはならない。

「薬局はここを出て左に曲がると...」
と清算を済ませた人を捕まえては説明しているおじいさんがいる。
片足に包帯して松葉杖を突いているのに、である。
病院から何がしかの報酬が有ってしかるべきだろう。

その薬局へ行くと、かつてのモボ・モガ達がまた、孫の音楽会にでも来たようにニコニコと座っている。
みんなゲンコで足りないくらいの色んな薬を処方されているので待ち時間が長い。
それでも誰も文句は言わない。

尻の青いおやじである私はイライラする。
「レイアウトと人員配置に工夫が足りない...」
などと悪口を考えていると、
「奈良鹿さ~ん」

有ろう事か、私の処方箋に書かれた薬は新薬なので14日分以上は出せないと言う。
「お医者さんが28日分出せって言ってるのに?」
済まなそうに丁重に拒否され、仕方が無いので2週間分だけ貰って帰る。

「私のように足が達者な者だからいいものの、あのじっちゃん・ばあちゃん達だったらどうするんだ?
『また2週間後に来てくれ』と言って平気なのか?
薬事法は間違っとる!」

道すがらプンプンしていたが、病院や薬局で見た老人達ならもっと怒っただろう。
「2週間分だと?!
1週間分でいいさ!」

彼等のほとんどは毎週通っていて、それが健康の秘訣のようだからである。
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by himesika | 2010-01-27 23:06 | 駄文 | Comments(4)

【インスタント】

学生時代に冷凍倉庫でバイトをした経験が有る課長が、
「マイナスも20度くらいになるとあんまり寒く感じないですよ」と言う。
「でも、水に濡らしたタオルが棒っ切れになるんだろう?」
「そうです」
「そりゃ、『寒い』と言わずに何と表現するんだ?」
「『痛い』ですかね...?」
私に聞かれても困る。
そんな所へ好き好んで入る訳が無い。

以前、ロシアの或る都市でマイナス70度を記録したと聞いた。
お風呂の場合、1度や2度違うだけで足も浸けられなくなるんだから、その逆のしかも70度となると想像だに出来ないとんでもない世界である。

上には上が有って、下にも下が有る。
あらゆる熱の届かない宇宙空間では絶対零度、マイナス273.15度なんだそうだ。
誰が測ったのかは知らないが、本に書いてあるんだからそうなんだろう。

そうすると、宇宙船で入れたコーヒーを船外に排出した後回収すれば、何もしなくてもフリーズドライのインスタント・コーヒーが出来上がるって事になる。
地上だからこそ大変な装置が必要なのだから、設備投資無しで大儲けだ。
我ながらこれは良い事に気が付いた。

あとはロケットさえ手に入れば良いのである。
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by himesika | 2009-11-08 00:08 | 駄文 | Comments(0)

【食癖】

時々無性に何か特定の物が食いたくなる。
腹具合に関わらず、突然思い付くから厄介である。
しかもカレーライスとか焼肉とかいったメニューではなくて、「酢豚に入っているピーマンだけ」だったりするから、我が事ながら鬱陶しい。

中華料理屋に入って「酢豚のピーマンだけ」と注文する訳にはいかないだろうし、ピーマンだけ突付いて食べ残したりしたら作った人に心配を掛ける。
「何が気に入らないんだろう?」
「気に入らない」んじゃなくて、残りは「要らない」のである。
要らないんだけれどもそこに無きゃいけない。
そうでないと「酢豚のピーマン」でなくなるからだ。

もっと判り易いように「ポッキー」を例に挙げよう。
頭の部分が心持ちチョコが多い。
そこだけ今すぐ齧りたいという衝動に駆られる時が有る。
残りの部分は、放っておくとチョコが溶けてべちょべちょになるし、次の先っちょが食べたい一心だけで我慢して食う。

しかし、最初からその部分だけを出されても有り難くない。
長いプリッツの先頭部分だけカリッと戴くのが宜しい。
あとは家内でも子供でも隣のおじさんでも誰でもいいから片付けてもらう。

誰かが今まさに食べようとしているやつの先っちょを横から齧り取るというのが理想なんだが、そこまですると訴えられる。
目の前で折ってくれたのでも我慢しようと思えば出来なくもない。

私の両親は、自分達が子供の頃から食い物に苦労したので、子供達には同じ思いをさせたくないと思っていたらしい。
お百姓さんに感謝して米粒を箸で拾って口に運んでいると、「そんな卑しい食い方をするな!」と怒られた。
「残すのが礼儀」というどこかの国を手本にしていたのだろうか?
いずれにしても親が育て方を間違えたものだから、子供としては如何ともしがたいのである。
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by himesika | 2009-10-09 10:56 | 駄文 | Comments(2)

【単語の中抜き】

近頃の若者達は時々妙な単語を使う。

「この問題、むずいわぁ」
「うっといなぁ」

「むずい」は「むずかしい」、「うっとい」は「うっとうしい」の略らしい。
本人に確認した訳ではないが、まず間違い無かろう。

「きもいからやめて」
娘が家内にくすぐられてそう言うのを聞いた時、「何語?」と思った。
何と、「きもい」は「きもちわるい」の省略形なのである。

「きしょい奴やなぁ」
テレビのタレントを見て言い放つ。
「きしょくわるい」が「きしょい」となる。

どうも良い意味合いを持つ言葉には適用しないようだ。
「きもい」も「きしょい」も「きもちいい」「きしょくいい」の短縮でも良さそうなものであるが、そうは行かないのである。
彼等は一語、一息で不快感を表そうとするから、否定文でも使われにくい。

また、「みすぼらしい」などという単語は彼等のヴォキャビュラリーに入っていない為、「みすい」という表現も無い。

「気持ち悪い」を縮めるのなら「きもわるい」の方が判り易いのに、何故に「きもい」なのか?

私がもんもんと10分間考えて発見した法則を惜しげも無く公開しよう。

「4音節以上の形容詞の頭2音節+『い』で3音節化する」というものである。
この法則がどの地域や年齢域まで普及しているか知らない。

「うっとい話で、きしょいオヤジがむずい事言うて、きもいわぁ!」
と言われるのであろうか?

いやいや、「うっとい!」でおしまいにされるに決まっている。
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by himesika | 2009-09-02 21:53 | 駄文 | Comments(0)

【へら】

ここだけの話だが、我が家にはどうも特殊な菌が発生しているようだ。
私どもは『へら菌』と呼んでいる。
何の前触れも無く、いつの間にか感染して恐ろしい症状を呈する。

何を見ても、何を聞いても、また、何を言ってもへらへらしてしまうのである。
端で見ていると、「あっ、『へら』が入ったな」というのが判るが、本人は自分が変になりつつあるのを察知できない点が厄介だ。

ここしばらくの観察によると、第一次感染者から二次、三次と波及する事はまず無いが、感染者は自分自身で『へら』をコントロールできない。

感染して10分もしない内に言語中枢が麻痺して喋りがおかしくなる。
その後、思考回路がショートして会話が成り立たなくなる。
ピーク時には運動神経もやられて、ぐにゃぐにゃしながらへらへらの状態が続く。
そうなると自然に治まるまで待つしか手立てが無い。
特に子供がそういう状態の時に黙って見ているしかないのは親として辛い。

いきなり現れる事、伝染しにくい事、放っておくと治る事などを考え合わせると『しゃっくり』同様、生理現象の一種という考え方も出来るが、第三者の報告を待たねば事の真相は判らない。
遺伝というのも考えられなくはないが、私も家内も時として『へら状態』に陥るのでその可能性は極めて低い。

いずれにせよ、お隣さんに知れるとまた管理会社に通報されるので、くれぐれも内密にお願いしたい。
どうしても告げ口したいというタチの方は、「意味無く笑い転げているだけ」という事にしておいて下され。
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by himesika | 2009-08-19 22:28 | 駄文 | Comments(0)

【売り声】

スーパーの特売日。
色んな売り声があっちからこっちから飛んで来る。

「おいしいメロンはいかがでしょうかぁ!
よろしかったらお求め下さい!」

「お安くなっております!
味付きカルビはいかがでしょうかぁ!
よろしかったらお立ち寄り下さい!」

中に横着なのが居て、
「よろしかったらいかがでしょうかぁ!」

何が何だかさっぱり判らない。
片付かない気がして、言い直してやりたくなった。

声の主を探して行ってみると、ワゴンセール。
どんぶりの素も有れば、さんまの蒲焼も有るし、ウィンナーも有る。
賞味期限ギリギリの売り切り商品だ。

「今回だけは大目に見てやろうかぁん?」
と、つぶやきながらコンビーフの底を覗いた。
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by himesika | 2009-07-24 20:43 | 駄文 | Comments(0)

【望み】

或る日、魔人が現れて、「お前の望みを3つ叶えてやろう」と言われ、「あなたと同じ能力をくれ」と言ってしまうと、あとの2つはどうしよう?
そんな風に考えていたら、大変な事に気が付いた。

魔人は、他人の望みを叶える事が出来ても、自分の望みは叶えられないのである。
そうでないと、他人の望むところを潤すばかりで、自分はランプの中なんぞに押し込められている筈が無い。
望むなら逃げられるものをじっと甘んじて受け入れているのは妙であるから、それが任務なのであろう。
なんとまぁ、残酷な話だ。

であるから、魔人への返事は、
「1つ目は、あなたと同じ能力を身に着ける事。2つ目は、その能力を自分の意思で使える事。3つ目は、あなたに掛けられた呪文を解く事」
とすれば、めでたし、めでたし。
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by himesika | 2009-07-08 21:50 | 駄文 | Comments(0)

【鉄球作り(下)】

いよいよ泥にする。
しつこいようだが、水を使い過ぎてはいけない。
たっちゃんは、「最初の水は多くたって適当でいい」と言ったが、あれは嘘だ。
適当で「最強の鉄球」が作れた筈がない。

まずは泥んこのボールを作る。
ちょうど両手の中に納まるくらいの大きさがいい。
それに砂を掛けては握り、掛けては握る。
その繰り返しだ。

数えた事が無いので何回やれば良いのか判らない。
判らないくらい繰り返す。
1日では到底無理だ。

それで「秘密の隠し場所」に埋めておく事が必要になる。
人に悟られずに自分で見付け易い所という条件はなかなかに難しい。

幾多の困難を乗り越えて、最初は泥んこであった物が黒光りして来て、「これでもか!」と磨きを掛けると「出来た!」と宣言する。
その宣言をいつするか、というのも大問題なのである。
何故なら、宣言した者はその鉄球を肩の高さから砂場に落下させるという「鉄球の証明」をしなければならないからだ。
大抵、お披露目の前の実験で失敗だった事が判るから、「証明」されるのは5つに1つくらいだったろう。
それだけ「宣言」される頻度も低い。
みんなの目前で割れるような事が有ると大変な事になるのだ。
かなり長い間、みんなから馬鹿にされる。

さて、たっちゃんの鉄球がどれほど強かったかと言うと、何度「鉄球の証明」をやっても割れなかったのである。
恐らく10回近くは耐えたと思う。

普通、日にちが経つと割れるものだったが、たっちゃんのは違った。

ところが、とうとう割れてしまう日が来た。
たっちゃん自身がコンクリートの壁に投げ付けてしまったのだ。

「もっと硬い『はがねの玉』を作るんだ」と言ったけれど、私の記憶には「最強の鉄球」以上の物は残っていない。

壁にへばり付いて円錐の土くれになった最後だけはよく覚えている。
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by himesika | 2009-06-19 23:38 | 駄文 | Comments(0)